手書き製図の意味

地図作成のデジタル化がこれほど進んだ現代にあって、手描きの製図が滅んでいないのは何故なのでしょうか。確かに昔に比べれば、はるかにデジタル化の割合は高まり、丸ペン、スクライバー等は無用の産物に成り下がっています。

しかしパイプペン、トレーシングペーパー等は生き残っており、そこから生まれる簡便な製図は、しばらく残存するであろうと考えられています。製図の基本は地図作成の基本です。確かにパイプペンとマウスとでは、使い方も使い勝手も可能性も異なりますが、手描きで実感しながら検討できるという作成プロセスは、マウスを幾ら動かしても経験できるものではありません。線の仕上がり、文字の大きさ、配置のバランス等は、そうした身体的実感がものを言います。なぜならマウス操作はあくまでも遠隔操作であり、身体化されにくいからです。

地図作成のデジタル化

デジタル製図のメリットは枚挙に暇がありません。モデルを数個作るだけで、日本地図等の基図をすぐに呼び出し、加工することもできますし、誤りの修正も容易に行えます。しかし最終工程はマウスを使うとはいえ、やはり手を動かす描画に他なりません。その点、最初のトレーニングは手描きで行うのが望ましく、地図作成の基本中の基本が手描きのスキルにあるのだと分かります。さて、デジタル製図は手描きとは異なり、当然デジタル機器を準備しなければなりません。その代表的機器が、パソコンとプリンターです。最近はそこにスキャナーが加わっている状況にあります。パソコンは時代がすすむにつれて、そのCPUが急速に進化してきました。ハードディスクも大容量化したことから、地図作成はこの数十年で随分捗るようになりました。特に地図は画像データそのものですから、地理学界隈は一番恩恵を受けている分野なのです。

デジタル化の歴史

地図の歴史を繙くと、日本では1880年の測量に始まったことが見て取れます。それから長いようで短い百数十年が経ち、今では高度な技術を用いた地図作成法が確立しています。過去の技術革新にも目を見張るものがありますが、現代のデジタル化の流れもそれに勝るとも劣らない、凄まじい技術進歩の結晶と言えます。デジタルマッピングという概念は多義的で、地図学の素養はもちろんのこと、デジタル技術に関する知識も動員して理解しなければなりません。そもそもデジタル化という言葉も、何のデジタル化なのか明確に定義されていません。考えられるのは、測量、データ分析、製図といったプロセスにおけるデジタル化でしょうが、これら一つ一つのプロセスを貫くGIS(地理情報システム)と呼ばれる技術もあります。GISの発展は、まさにデジタル化の核心だと言えます。

行政への影響

行政システムはがらりと変わり、今後の社会生活の変容を期待させるものです。もちろん本業とも言うべき地理情報分析においても優れた能力を発揮しています。具体的には、データのオーバーレイ、バッファリング、ボロノイ分割等、人間の能力では追いつかない情報処理を、ハイスピードでこなすことが出来るのです。

このGISによって、地理学上の新事実が次々と発見されていますし、理論構築にも大きく貢献しています。特筆すべきはコロプレスマップにおける活躍でしょう。段階区分の設定から地図化まで、その正確さとスピードとにおいて、誰も真似のできる仕事ではありません。もちろんGIS以外のシステムにも期待できるものが多くあり、今やデジタル全盛の時代に差し掛かっています。

しかし注意したいのは、地図作成スキルという概念において、デジタル化が手書きスキルの概念そのものを消失させると、先走って思い込んではならないということです。つまり、手書き製図は依然として有力なのです。